Toyota GR Supra '2020

姉妹車であるBMW Z4の公開から遅れること4ヶ月、Toyota新型Supraが発表された。この車も例に漏れず日本での発表ではなくアメリカのCESでの発表となった。世界から注目を浴びる一台ではあるものの、スープラがそのメーカーがある日本ではなく、遠く異国の地での発表となったのはやはり悲しいものがある。日本の乗用車市場の半数を抑えるトヨタといえどグローバルカンパニーであることからのしがらみからは離れられるものではないらしい。それ以外のメーカーであっても察して知るべしであろう。生産はオーストリアにあるMagna Steyr社のグラーツ工場で以前よりBMWとの関係が深い委託製造会社である。グラーツはオーストリアの人口第2の都市で、自動車産業が盛んで、世界的な自動車エンジニアリング会社のAVLも同地が本拠地である。学生フォーミュラを知っている人には、グラーツ工科大学の名前は意識しないわけにはいかない。

エンジン及び電装関係にはBMWのシステムが採用され、Subaru BRZと同じようにトヨタはそのデザインとコンポーネントの一部の開発に徹したようにしか思えない.そのデザイン以外に独自に開発した部分や設計に盛り込んだがあればアナウンスしてほしいところではあるが、プラットフォームと多くのコンポーネンツを共有している車両の開発において、個々の部分はどちらのメーカーが開発を主導したという話はあまり意味をなさないだろう。

このような非常に趣味的、所謂量産スポーツカーの開発において一つのメーカーがその全てをまかなうことは非常に難しいとする昨今、共同開発といえど販売までしてもらえるのであれば御の字と言えるのではないだろうか。

それでは、デザインについて話を進めていく。

デザインの発端は以前公開されたToyota FT-1 Conceptである。コンセプトモデルは「F1のモチーフをスポーツカーに持ち込んだ場合どうなるのか」という考えの基だと考えられている。同様の発想は例えばEnzo Ferrari などで見られる。これは以前トヨタがF1に参戦していたからであり、イメージを連動させより上位のブランドステータスを醸成しようとする試みの一環であったと考えられるが、実際にデザインが実現された時代には当のメーカーはF1から撤退していたというなんとも皮肉めいたデザインでもある。

正面下部を見ると巨大な開口部が見えると言うか、ボディワークが全くが見えない。確かにスポーツカーの場合大きなラジエーターを冷やすために大きく開口部を設けること一般的ではあるが、ここまで潔くボディワークを取り払うのも珍しい。ボンネット中央前部が力強く張り出しており、2本のステー下がっているようにも見える。これがF1のノーズを思い起こさせる。

ボンネットは空力的な処理が考えられており、スームーズに車両後部へと空気を流す形状になっており、上から大きくを覆うように非常に彫りが深く複雑な形状である。ヘッドライトは近年のトヨタに似つかわしくなく、滑らかなカーブの少し丸っこい印象のヘッドライトが備えられており、全体の緊張感に対して少し愛嬌のある表情を醸し出している。このことがこの車が完全なマシンではなく、ある種のキャラクター性を持った身近な存在としているポイントではないかと思われる。

そして以外にも重要な役割させるのはヘッドライト車のサイドのエアインレット部分である。これがあることによって以前から販売しているでトヨタ86との判別を容易にしている。スポーツカーであるということからして、その空力的特性の持たせ方や開口部の処理などはある一定の形態に集約することからは致し方ないことかもしれないが、同メーカーにあってもヒエラルキーや背別化・個性の獲得は重要なことではある。片や200万円台から販売される車両と500万円台から販売される車両ではなおさらである。このエアインレットがなければ大げさに書いてしまえば、遠目から正面から見てToyota86と識別することは困難ではないかと危惧してしまう。

サイドから見ると直列6気筒エンジンを載せるに相応しい長さボンネット、ドアとフロントタイヤの間の感覚もたっぷりと取られ、上下に狭いグラスエリア、大きく張り出すリアフェンダー、そして最後に少しキックアップするリアスポイラーと先代のスープラのデザインを大きく踏襲している。一方でボンネット最後部端から少し下がりつつも微妙に後部に向かって上がっていくグラスエリア下端やダブルバブルルーフ、フロントタイヤの中心から後部にオフセットされわずかに下降していくフロントフェンダーの稜線上部、当の処理についてはToyota 2000GTを彷彿とさせる部分がある。

大型エンジンをフロントに搭載し後輪を駆動させる二座の背の低い車という意味では、フロントノーズショートデッキのスポーツカーであり。ともすればアメリカのポニーカーやマッスルカーなどと同じのデザインになってしまう可能性もある。フロント端を可能な限り下部まで下げ、キャビン後方のボディワークを綺麗に絞っていく、そして後輪フェンダーのセンターをゆるやかに前方に連動させることで既存のマッスルカー等のデザインに見えないようになっている。

ボンネットのエアアウトレットはデザイン上のアクセントになっておりこれにより視覚的に、実際のボディよりもフェンダー上部が少し盛り上がっているような雰囲気を狙っていると思われる。

後輪前部のフェンダーラインに設けられたエアインレットはおそらく後輪のブレーキを冷却すると目的だと考えられるが、ドアの部分については製造上の問題で板を分割せざる得ずフェンダーのラインや下部のキャラクターライン、そしてパーティングラインにより従来の車に比べてかなり複雑な構成に見えてしまう。このことが若干造形としての純粋性に対し、視覚的な情報の過多により雑音めいたものに感じられてしまう。本来であればこのドアの部分についても表面は単一のパネルで仕上げ、後輪フェンダーへの連続性を演出したかっただろうことを考えると残念ではある。

まさに別体のパーツではなく後輪のフェンダーの一部として考えるのがデザイナーの意図するところだろうが、おそらくカスタムされる際にラッピングを施したりするなどして完全に別のパーツとして強調される場面も見られる日が来るのではないだろうか。それも少なくない事例でである。例に挙げればAudi R8のサイドブレードなどがそれが当てはまるだろう。

リア側は細いテールランプに個性はない、それどころかLexus車に似てさえいるのは気になるところである。テールランプサイドから大きく張り出したラインは今日のトヨタ車に共通したデザイン要素であり、コンセプトの段階から引き継がれている点である。

そしてスポーツ色を強めるためにディフューザー風にまとめられたリアバンパーはその効果の程は不明であるが、量感あるリアスタイルに適度なケ軽快感を持たせているのは、他のハイパフォーマンスカーと同様である。リアエンドのキックアップしたスポイラーはトランクリッドに張り付けたものではなく、完全に一体で成形されており、洗練ではなくやんちゃ感を強調している。

考えてみればフェンダーの張り出しのラインとこのキックアップしたスポイラーがなければ、Porscheと言われて不思議はないかもしれない。

ドライバーから見たインテリアまさにまんまBMWの設計である。もしここにTOYOTAのエンブレムが備え付けられていなかったら誰もがBMWであると勘違いするだろう。ボンネットから連続するダッシュボード上面。横一列に配置されたエアコンのルーバー 、そしてその上に鎮座する台形のディスプレイ、シフトノブや他の入力インターフェースについても誰が見てもBMWが設計したとしか思えない形状と配置である。

インテリアに関してはもっと積極的に差別化を図るためにトヨタ側で手を入れてもよかったんじゃないかと思えるが、基本的には電装系自体が BMWのシステムを使っているので、末端のコントローラー等についてもその操作方法や作法についてはあまり変えることが出来ず、なおかつコンポーネント自体の設計を変更するメリットがあまりないと考えると、これはこれでいいのかもしれない。

少し古典的な色合いでまとめられているが、もしかしたらカタログにはもっと明るい配色なども用意されているかもしれない。エクステリアのやんちゃ具合との違いについて若干の違和感を覚えてしまう。

エンジンルームの景色もまんまBMWの設計である。 中央にBMWのストレートシックスが鎮座し、エンジンカバーはToyota独自のものが据え付けられている。フロントストラットタワーはアルミダイカスト製で近年の技術的トレンドを押さえている。現在公開されている画像は少ないが、細部を見るとまだまだアップデートできる拡張性を有しているように見えるのは邪推だろうか。

全体としてリアフェンダー周りの造形をしっかりと強調したことにより、サイドウィンドウより前側の形状が相対的にのびやかに見え、この前後のコントラストが基本的なレイアウトの関係を超えるダイナミック感を実現しているものと思う。

各部のデザイン要素は「やんちゃ感」を盛り込みながら、微妙に抑制することで新たな個性を獲得としているが、形状が複雑でデザインについて賛否両論はあると思うがこのような挑戦的なデザインを行ったという意味においては高く評価したい。

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