Subaru Legacy '2020
この頃、不祥事・コンプライアンス問題・品質問題で自動車業界を賑わすSubaruがシカゴモーターショーで7代目Subaru Legacyが発表した。日本で発表されないことに加え,日本人がほとんど意識しないところを見ると日本ブランドのグローバルモデルである。それは5代目レガシィが登場したときにわかっていたものの、その誕生の地である日本では完全に過去のものでしまった。以前は日本の車好きは誰もが一目置く存在であり、個人的にも四代目はデザインだけでなくメカニズム面でも覚えておくべき名車であると思っているので寂しい限りである。
公表はされたものの販売まで時間があるため公表されている画像は少ないが、デザインを見ていこう。
デザインの第一印象は大型版Subaru Imprezaである。フォルムはオーソドックスなFFミドルサイズセダンの形態を取り、コンサバティブなアメリカ市場では賞賛を受けるとまで言えないまでも、怪訝な顔をされることはないだろう。
これを書いている瞬間にはまだ現行型であるが、先代Subaru Legacyに対してキャラクターラインに抑揚がつけられ、デザイナーが言うところのエモーショナルなショルダーラインとなっており、フロントフェーンダーから始まりフロントドア前部で一度沈み込み、テールランプに向けてキックアップしている。ただキックアップしてるだけでなくクォーターパネル前方で少し歪曲させ、自動車としての前方に向かって走っていこうとする印象と、車格に見合った重量感を両立しようとしている。いわゆる情緒に訴え、存在感を主張するデザインを志向しているのは分かるものの、あまりにも保守的というか、教科書的というか、特に書くべきところがないという、デザインにおける挑戦は見られない。昔からデザインに対していろいろと問題を抱えたメーカーであるものの、それなりに試みを仕掛けていたことを考えるとやはり寂しい。、ドア面の下側のキャラクター等についてもポジ面とネガ面をコントロールし視覚的情報量を増やし、情緒的な雰囲気を醸し出している。明確だった先代のキャラクターラインとは異なり、消込処理が強い新型は塊間も弱まり、Subaru が用いるデザイン言語『DYNAMIC × SOLID』感的には少し疑問である。ただ、現代の衝突安全性の要請からくるドアパネルの縦寸法の拡大により、グラスエリアがスリムになったことで力強さと軽快感の調和という意味では確実に進化はしている。
少し前のデザイントレンドの反発からか、現在のトレンドに従いヘッドライトは薄型化している。一方でフロントグリルは大型化はせず、加飾メッキグリルは排され、ボディのフォルムに合わせて立体的になっており、エンブレムは完全にボディから凸出している。アッコニックにデザインを主張するためにフロントグリルを垂直に切り落としたり、エンブレム裏にレーダセンサーを設けるために平面の板に立体的にプリントされた樹脂製の板を貼り付けるブランドも多いが、このへんは少し独自性が感じられる。
フロントグリルとヘッドライトの段差はかなり小さいものとなっており、デザイン要素の主張の衝突は軽減している。スバル車の特徴であるホークアイヘッドランプの眼球に当たる部分の下方に対する凸部は更に小さくなり、その造形的な意味には若干疑問はあるものの、無いなら無いで無個性が更に強まる為、やはり必要ではあるのだろう。先代後期型から導入されたコの字型のデイタイムライトの上側の先端を伸ばしたヘッドライトの突起や、ヘッドライトユニット後端も段階的にすぼめられている造形などもボディの塊感を自然なものとしている。
フロントバンパー下部は大きな開口部には二本のフィンが立っているように見えるが、実際はボディ同色のフロントバンパーに黒い樹脂製の部品を上から貼り付けて開口部のように見せるような仕上がりとなっている。
ラジエーター冷却用に実際に開いている中央の開口と、左右の開口っぽくブラックアウトしている部分がつながり開口部が連続して設けてあるわけではない。
これはフロントバンパーの整形のためのコストを抑えながら、様々なグレードを展開するのに好都合な方法であるように思える。つまりはコストカットである。
フロントグリルに加飾メッキのグリルフレームを適用しないのは慎ましやかで望ましいとは思うが、ここまであからさまにコストダウンが行われると、ほかの部分についてもコストダウン目的からデザインが行われていると見えてしまう。
リアについても、基本的には無駄な加飾等はなく、オーソドックスな構成である。セダンのリアセクションの重厚感を軽減するためリアバンパー下部は樹脂部品でブラックアウトされている。テールランプは、ヘッドランプ同様にコの字型を基本にして、ヘッドランプと呼応する造形となっており、前後のデザインの一体感は自然と納得できるものである。近年では前後のランプ形状を全く別のものと考えるデザイナーも居るにはいるようであるが、コンサバティブなプロダクトとしてはこういったまとめ方が望ましいように思う。
内装の基本的な構成は先にモデルチェンジしたSubaru AscentやSubaru Foresterや非常に似ており、ドライビングポジションや人間を囲む空間の在り方だけでなく、実設計としてもインパネを支えるステアリングハンガー(ステアリングメンバー)の構造の基本SGP(Subaru Global Platform)で共有しているのではないだろうか。SGPは性能に対する構造面だけでなく、サブアッセンブリーラインでのタクトタイム等も含めたプロダクトを構成する開発要素に対してより広範な範囲をカバーしているのかもしれない。
フロントドア付け根の三角窓とサイドミラーのレイアウトは、ドライバーに視界を広く提供することに定評あるSubaruだけにトップクラスの外界視認性を確保されており素晴らしい。
まとまりが悪かったマルチインフォメーションディスプレイは廃止され、変わって中央にはフルHDの11.6型ディスプレイが備え付けられており、TeslaほどではないがToyota Priusと同等の大きさと解像度を持つこととなった。このToyota Priusと同じということがどういう意味を持つのかはわからないが、ハードウェアは全く同じかもしれないし、さらにOSも同じかもしれない。そうなるとToyota嫌いでSubaru好きの方は、Subaru車を快適に乗りたくて Subaru車を購入したにもかかわらず、ToyotaのIoT戦略を応援せざる得なくなるかもしれない。
疑問なのは空調設備までディスプレイに一体化されている点で、Subaruが訴求している安全性への拘りに逆行しているように思えてならない。確かにコストカットとなり、スペック上のディスプレイサイズは大きいと主張することはできるが、空調設備の調整は安全のためにアナログインターフェイスにしてほしいところである。また、まだまだデジタルデバイスへの信頼感が完全ではない身としては、インフォテイメントシステムの不調が、時には生死を分ける装備と直結していることに不安を覚える。
また、ディスプレイをユニットの上部を覆うパネルはドライバーがよく目にする位置にあるにしてはチープ感がある。いかにもな樹脂部品である。樹脂でも構わないので表面処理等を工夫するべきであると思う。
メータークラスターはオーソドックスなアナログな回転計と速度計、その中央に小型のインフォメーションディスプレイを配する構成で、基本発光色は白と非常にシンプルになっており運転を妨げることはない。道具としてはこれで満足ということができるだろう。
内装はSubaruの他のモデルと比して、少し華やかな感じがある。これは主に内装部材のカラーによるものである。スバルはインストルメントパネルに黒い樹脂部材を配し、たまに差し色でオレンジなどを使うと言ったようなオーソドックスな構成が多い。フロントガラスへの映り込みとコストを考えると正しい選択である。これに対してSubaru Legacyでは乗員に対して垂直な面にまで内装カラーの適用を拡大している。昨今のSubaru Legacyが属するセグメントではコスト的な面を多少スポイルしても、パーソナルな空間の演出が重要視されているからだろう。ただ使いやすい道具あるということや、高い基本性能を有するだけのプロダクトからの脱却は生産規模の小さいSubaruの優先的な課題である。
インナーフレーム構造をSubaruとしては初めて導入するなど着実な進化を続けるSubaru Legacyであるが、スバリストを惹きつける分かりやすい魅力を失いつつあるように思えてならない。しかし、バリューフォーマネーと普遍的な基本性能を高め、セグメントで欠かすことのできない一台であるという意味では、名車の系譜にふさわしい存在であることを目指しているのかもしれない。
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